好きなものは、梅酒より梅の実。
間に合わせのつもりで買ったわけではないけれど、
案の定、それではだめだったようだ。
何度も、「これでいいじゃない」と自分を説得してみたけれど、
どうしても、ピンとくるものが足りなかったので、
仕方なく、もう一度買い直すことにした。
ロフトとか雑貨屋とか、あちこちの店をまわった結果、
最後に選んだのは、これで何冊目かになる定番ノート。
色まで同じではあまりに芸がないと思いつつ、
やっぱり毎日持ち歩くのだからしっくりくるものを、と
結局、いつもと同じ紺色にした。
あれが、かけがえのないものだったのだと気がつく瞬間は、
ふとしたタイミングでやってくる。
なにげなく違うものを手にしたとき、
ああ、あれでなくちゃだめだったのだ、と
急流みたいな切なさとともに思い知る。
たとえば、ノート1冊を選ぶときにも。
昔、住んでいた家の玄関脇には2本の梅の木があり、
毎年、季節になると母は梅酒をつくっていた。
瓶の底に沈んだ梅は、不格好にしわが寄っていたけれど、
おとなになって、早くこの梅の実を飽きるほど食べたいと
瓶に顔を近づけながら、
そのときを楽しみに待っていたことを思い出す。
あのころからきっと、梅酒よりも好きなものは梅の実。
そんな日々を振り返りつつ、酒屋で買った梅の酒を飲む。