記憶が、記憶をつれてくる。
こころの底に沈んでいた記憶は、ふとしたはずみで表層に浮かぶ。
望むものであろうとなかろうと
水脈が広がるように、思い出がよみがえる。
あふれる記憶の泉にふたをせず、
かといって、とまどう様子も表に出さず、
冷静なふりをしてやり過ごすしかないとしても、
ほんとうは、駆け出したくなるような衝動が
からだのどこかで生まれてる。
たった一杯のコーラからはじまった小さな波。
炭酸の泡が消えるのと同じ早さで、思い出は引き潮みたいに遠ざかり、
やがて、なにごともなかったように、
音もなく、空気に溶けた。