ひとの意思は、生まれた瞬間に作られるのではなく
胎児のときからすでに存在するのだとしたら、
人生でいちばんの期待と不安を抱えていたのは、
もしかして、羊水を漂っていたときだったのかもしれない。
たまにアイピローを乗せて眠ることがある。
ラベンダーの香りがついたそれは、
じゃりじゃりとした肌触りが気持ちよく、まぶたに乗せると
誰かに手をあてがわれているような感じがして心地いい。
目の上に感じるこの程度の重さは、
胎児のとき、羊水から受けていた圧力と同じなのだそうだ。
もちろん、人間がそのときのことを覚えているはずもないが、
それでも、アイピローを乗せるだけで
なにか大きなものに包まれる気がして安心するのは
たぶん、身体にしみ込んだ記憶のおかげなのだろうし、
羊水のなかを漂いながら、ひとは生まれながらにして
最大の期待や不安を抱えていたのだと思えば、
いまのこの心境など、とても小さな存在に見えてくる。