たとえ、いつもの笑顔しか思い出せなくても、
わたしはどうして、彼女が悩んでいることを
想像すらしなかったんだろう。
電車のなかで座っていたら、水滴がぽつりと膝の上に落ちて来た。
みるみるうちに、ジーンズが水を吸う。
ハッと顔を上げると、目の前に立っていた金髪の女性が
「なにか?」という顔でわたしの方へ視線を落とした。
ああ、よかった、
誰かが泣いていたわけではないのだと安心しつつ、
2日前、せつないメールを送ってくれた彼女は
今頃部屋で泣いているのかもしれないな、とその様子を想像したとき、
これは、遠くの涙がわたしの膝にこぼれたのだと思った。