今日の風は、あの町の風。
朝、アパートの扉を開けて身体に風が当たった瞬間、
ああ、これはあの町の風だと感じることがある。
こころに浮かぶ光景は不思議なほどに鮮明で、
今日の風は、雨季明けのチェンマイで、
旧市街を歩いているときの風と同じだとか、
これは、ペナンの宿の屋上に洗濯物を干しているときと同じだとか、
これは、ダラムサラの屋台で朝食を食べているときと同じだとか、
気温も、日差しも、周りから聴こえる音も
記憶のなかと今とでは、まったく共通点がないけれど、
わたしの旅の記憶には、きっと「風」という索引があって、
いつでも風から思い出をたぐることができるのだと思った。
朝食に、先日初めて出かけた町で見つけた黒パンを使って
ツナのサンドイッチを作った。
今日の風は、インドの北部、バドリナートかガンゴートリーで
寺から聴こえる鐘の音を聴きながら、チャイを飲みつつ
山を見ていたときと同じ風。
だから、ツナにも少しだけスパイスを混ぜたくなったのかもしれない。