「あきらめる」とは、あきらかにみるということ。
彼は、自分を呪ったか。
お金も、家も、家族も持たず、
朝から晩まで、寺で施しを待つ身の上を。
太陽が50度の光を投げかけようと
それから逃れる術も持たない、己の無力を。
彼は、ひとを羨むか。
絹の衣装をまとって詣でに来る子どもたち。
コガネムシみたいな虹色のサリーを纏う、でっぷり太った中年女性。
彼の衣服といえば、一枚の白木綿だけ、
いくら熱帯の国とは言え、乾季の晩は冷えるのだ。
その細い身体には、夜半の風など堪えるだろうに。
たぶん、この世界には、
あきらめなければならない事柄が
きっと、たくさん存在するのだ。
もがいて、焦って、じたばたしても
どうしようもない事実が、そこかしこに転がっているのだ。
彼には、彼の。
わたしには、わたしの。
恨んでも、仕方ない。
ひとと比較してもむなしいだけだ。
それぞれが、自分で蹴りをつけなくてはならないのだから。
写真を撮らせてもらったお礼に、
彼の前に、2ルピーを置いた。
そこのチャイ屋で、朝食代わりの1杯を飲めるように。
彼は、わたしの方を見ることすらなかったが、
わたしは、彼を忘れないと思った。