身体の細胞の一つひとつにまでスパイスの香りがしみこんで、
ビスケットを食べてもクミンやターメリックの味がして、
ああ、この国はどこまで行ってもカレーしかないのだろうか、
帰国したら、絶対にしょうゆを一気飲みしてやると誓ったのは、
今から10年前の、初めてのインド旅行。

それ以来、わたしはインドで過ごした一年のあいだ、
何百、何千のカレーを食べただろうか。
インドを最後に訪ねてから、もうずいぶん経つというのに、
右手の指先が、
細胞の一つひとつが、
今でもはっきり覚えている。
ほどよくぬるい、カレーの温度。
額を伝わる、汗のぬくもり。