「今朝撮った、あのパンの写真を載せよう」。
そう、思いながら帰宅したら、懐かしい友人から一通のメールが届いていた。
「今、モロッコのシャウエンでプチ沈没中です」。
そう書く彼には3年前、たしか、トルコのサフランボルで出会ったんだ。
石畳の古い町で、同じ宿に泊まっていた。
「別に、ビンボー旅行ってわけじゃないんだよね」って言いながら、日本との時差を考えつつ、ネットで株の売買をしていたね。
その後、イスタンブールでもアンタルヤでも、シリアのハマでもダマスカスでもばったり会った。
レバノンのベイルートでも一緒だった。
まあ、あのあたりを旅する旅行者は、みんな似たようなコースを辿るものだから、あちこちで再会したとしても不思議じゃない。
私がイエメンへ行き、ちょうど出国する頃に、彼もまたオマーンからイエメンへ来たんだっけ。
それ以来、ずっと旅を続けている彼とは会っていない。メールも数ヶ月に一度、忘れたころに来るだけだ。
「ブルキナでマラリアにかかりました」。
まあ、これも驚くことじゃないだろう。
西アフリカを旅する人なら、たいていが患うものみたいだし。
彼も1日で入院生活を終え、抗生物質で治しました、と言っている。
きっと、まだ旅の神様には見放されていないんだろうね。
もう、10年近くもそんな放浪生活を送る彼でも。
「またパッカ-はじめて、今頃インドとか言わないよね?」。
言いたいさ。そりゃ、もちろん。
だけど、今はまだ日本でやるべきことがある。
たとえ、明日インドへ出かけたとしてもきっと後悔するに決まってる。
思い切り、心の底から笑えないし、楽しめない。そんな旅ならやらない方がまだマシだ。
だから、私は行かない。日本でがんばる。
「まあ、このあとはヨ-ロッパに半年くらい滞在したらシベ鉄乗って、日本へ帰ろうかと思っております」。
旅には「終わりどき」がちゃんとあるから。
そのタイミングはふとしたときに現れるから。
そしてそれを逃したら、今度こそ本当にメビウスの輪みたいな旅地獄にはまっちゃうから。
だから、「あ、旅はもういいや」って思った瞬間を逃さないで。ちゃんと日本に帰ってきて。
それだけ長く旅をしているあなただから、そんなことは私に言われなくてもきっとわかっているだろうけど。
だけど、旅のおしまいを見つけられず、グルグルと無限の旅に出るようなことだけはないように。
今度は、日本のどこかでお茶でもしましょう。
ここにはトルコのエルマチャイもシリアのシャイもないけれど、おいしいコーヒーと緑茶があるよ。
私は、東京で待ってる。