どうしても、雪が降る様子を見たかった。
福島を過ぎ、仙台を越える。
盛岡までは、たしかに快晴だったのだ。
新青森に着いてホームにおりたとき、「空気が白い」と思った。
積もった雪が、ひかりを跳ね返している。
そして、そこから弘前へ。
ホテルに荷物を置いて、弘前公園へ向かった。
タクシーの運転手は「今年は雪が少ないねえ」と言った。
さくらの木を見上げ、満開の様子を想像する。
花を見るのもいいけれど、思いを巡らすのもいいものだ。
この時期、この街に来られてよかったと思う。
気付けばここはわたしにとって、本州の最北端だ。
向こうにそびえるのは岩木山。
この街では、どこにいてもあの山が見える。
いつからだろう、ずっとここに来たかった。
太宰も通った喫茶店、「万茶ン」。
川沿いを遠回りして、ホテルへ帰る。
巨大なイヌの背後には、まんまるの月がいた。
宿では、満月を見上げながら露天風呂に入った。
そして、雪国の朝。
すぐそこに五重塔があることに、初めて気付く。
やっぱりわたしは、東北が好きみたいだ。
寒いのは苦手だし、凍った道路では何度も転びそうになるけれど、
それでも、しんとこころが引き締まる北国の寒さが大好きだ。
列車に乗り、町のひとたちの会話に耳を澄ます。
あったかくてやさしいことばが、なぜかとても懐かしい。
だけど本当は、雪がしんしんと降る様子を見たかった。
町が、みるみるうちに雪で覆い尽くされ、
世界中のあらゆる音が、雪のなかへ吸い込まれていく、
そんな静寂の世界を、どうしても見たかったな。
でも、今年はこれでおしまい、
来年、また雪国へ行こう。