心あたたまる、灯りを前に。
今年のクリスマスはインドで過ごす。というより、12月になったらすぐにインドへ飛んでしまうため、わたしが日本で過ごす2010年は、あと28日しかない。
果たして、この一年がわたしにとって良いものだったかというと答えに窮してしまうのだけど、かといって悪い年だったかというと、そうでもないような気がする。結局、そこそこ良い年だったのだろう。
思えばいろいろなことがあった。南インドのコーチンで花火とともに新年を迎え、6月には上海へ行った。7月には再びインドへ行き、気温50度という灼熱地獄で真っ黒になった。その合間には本や雑誌の仕事をこつこつとこなし、毎日よくパンも食べ、コーヒーも飲んだ。素敵な音楽もいっぱい聴いた。
いいことも、哀しいことも、ドキドキするようなことも、切なくなるようなことも、なんだかたくさんあったような気がする。だけど、いまはそれらの感情をいたずらに引きずっているわけではなく、ときがすべてを上書きしている。
人間って、つくづくすごいなと思う。これだけ長い間生きてきて、なにをいまさらという感じだけれど、全身に散らばる約60兆個の細胞のうち、たったひとつがきちんと呼吸をしているなら、わたしたちはいつだって再生することができるのだ。
たとえば、ノイズのなかに一筋の旋律が聴こえるなら(たとえ当人だけにしか整った形に聴こえないとしても)、それはすでにノイズではなく音楽になる。そして、いったん旋律が聴こえたなら、それは永遠に音楽としてあたまのなかで鳴り続けるのだ。
100%の哀しみというものも存在しなければ、100%のしあわせというものもない。いつも、モザイクみたいにいろいろな感情がこころのなかで渦巻いている。そして、しあわせと哀しみの比重は決して等しいものではなく、たったひとつのしあわせが100の哀しみを打ち消すということもある。
なんだかわたしは今、来年、とてもいいことが起こるような気がしている。そう思う理由なんてあったってなくたって、わたしはいいことが起こるような気がしている、それだけだ。足は、視線の先へ進むもの。だから、わたしはまっすぐ前を見て歩くことだけを考えればいい。
今夜の東京タワーはクリスマスカラー。赤と緑のしましまカラーは、見ているひとの心にほっと灯りをともしてくれる。これをどこかで見ているあなたにも、そして、遠く離れて見られないあなたにも、ぬくもりの冬が訪れますように。