山と、朝焼けと、赤とんぼ。
昔、インドへ行ったときに
あるお坊さんと出会ってさ。
そのひとのことは、ここに何度か書いているから
ああ、またかと思うかもしれないね。
でもいいや、書きたいから書くことにする。
そのひとと知り合ったのは、ダラムサラという北部の町。
そう、あのダライラマが亡命しているところね。
わたしは山の断崖に作られたゲストハウスに
2週間くらい滞在したんだけど
ある日、そのお坊さんもその宿にやってきた。
屋上でひなたぼっこをしているとき、
こんにちは、日本から来たんですかって
少しだけおしゃべりして
それから毎日、顔を合わせるたびに話をするようになったんだ。
そのお坊さんの日課というのがユニークで、
とにかく毎朝、屋上で
「ありがとう」を100回唱えることから始まるんだ。
ありがとう、ありがとうって大きな声が山々にこだまする。
それが終わったら、今度は「ゆうやーけこやけーの」って
そう、あの赤とんぼを歌うんだよ、何十回も。
おわれーてみたのーはー、いつのーひーかー。
わたしは屋上に続く階段の端に座り、
じっと、その歌を聞いていたんだ。
ゆうやーけこやけーのって始まると
いつも、心臓がぎゅっとしたな、
なにか、おっきなものにつかまれたみたいに。
お坊さんとはそれっきり。
一度も会っていないし、連絡先すらわからない。
でも、「ありがとう」と赤とんぼの歌は
ずっと、忘れないと思うんだよね。
きっと、お坊さんは今もどこかで繰り返しているんだろうな。
ああ、なんだかいま、無性にあの宿へ帰りたいよ。
山を見ながら、赤とんぼを歌いたい。
行っちゃうか、
来週、日本を飛び出したらその足で。
写真は、
ZOPFのヨーグルトライ。
いつ食べても、ほれぼれするほどゆるぎない。
迷うこころを、原点に押し返す。
わたしにとって、いつでも「ゼロ」を示すパン。