好きなピアノ曲は、あのうた。

朝、なんだかとてもピアノの曲が聴きたくなり、
窓を閉じ、騒音を一切消して、
静かに、音楽をかけました。
どのピアノ曲でもよかったのではなく、
わたしが聴きたかったのはその曲で、
それが、スピーカーから流れた瞬間、
まるで、乾いた大地が水を吸い込んでいくように、
とうとうと、流れ続ける音楽は、
わたしの細胞の隅々まで、じんわり染み込んでいきました。
たしか、その曲を初めて聴いたのは
ニューヨークで過ごした、去年の夏。
そのときは、それほどいいと思わなかったのに、
なぜか、このごろふっと聴きたくなる瞬間がときどきあります。
町を歩いているときでも。
電車の窓から初秋の空を見ているときでも。
飛び跳ねるように、心に飛び込んできたものほど
あっという間に消えていき、
じわじわと染み込んでくるものほど、
いつまでも、長く心に留まっているような感じがします。
たえず、意識のなかにあるのではなく、
普段は、地面のずっと底の方に
ただひっそりと、眠っているだけで、
ふとしたタイミングで、表面に上がってくる。
それは、海のなかを泳ぐくじらが
呼吸をするため、しばしば海面へ顔を出すような、
たぶん、そんな感じです。
そんなふうに、
時折、表面に「それ」が浮かび上がってくる瞬間は
できるだけ、逃したくない。
好きな音楽なら聴いて、
好きな本なら開いて、
好きな場所なら出かけて、
言いたい言葉なら伝えて、
日々、そんなふうに、過ごしたいと思います。
たとえば、このピアノ曲を聴いた今朝みたいに。
そしてもちろん、
好きなパンなら、迷わず食べる。
ameen's ovenのパン・オ・カカオ。
レモンピールを散りばめたビターなパンは、
今朝、音楽を聴いているとき、私の手もとにやってきました。