アジアとアジアの飯をこよなく愛するライターの、「旅」と「パン」と「おいしいもの」があれば幸せな毎日の記録です。
by asian_hiro
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
2016年 10月
2016年 06月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月
hohoemiのベーグル
たくさんのほほえみを経由して。
hohoemiのベーグル_c0001023_18515823.jpg

ニューヨークにいたときは、よくベーグルを焼いたよ。
たいてい土曜日の昼間に焼いたんだけど、
オーブンを3回転して、1日に20個近く作ったり、
もう、一人暮らしとは思えないほど大量のベーグルを焼いたんだ。
仕上がりがいまいちだと、日曜日もキッチンにこもって焼き続けた。
そうそう、アパートの前の坂を下ったところに
コインランドリーがあってさ、
そこと家を何度も往復しながら
洗濯とベーグル作りを同時に進めたこともあったっけ。
ちょっとランドリーに長居しすぎると、
ベーグルが過発酵になっちゃうから要注意なんだけど、
つい近所のおばちゃんたちと話し始めちゃったりね。
懐かしい。
もどかしいほど懐かしくて仕方ないよ。

ベーグルはいつもプレーンばかりで、
時々、駅前の八百屋でフレッシュなブルーベリーが売られていると
あ、ベーグルに混ぜてみようかなと思うんだけど、
やっぱり、ベーグルはプレーンが基本でしょ、って
ひたすら、なにも混ぜずに焼いたんだ。
まずはこれを上手にできるようになってから
いろいろなものを混ぜてみようって、
結局、プレーンしか焼かないまま
ニューヨークを出ちゃったんだけどさ。

キッチンのガスオーブンから香ばしいにおいが漂ってきて
もういいかな、焼けたかなって扉を開けると
顔いっぱいに熱風が当たるんだ。
うわ、あちって、焦って扉を閉める直前、
ベーグルの焼き色を確認する。
やっぱりガスオーブンは、日本の電気オーブンとは馬力が違うね。
わたしみたいな素人でも、ちゃんときつね色にこんがり焼ける。
お、いいじゃん、いいじゃん、成功じゃんってひとり満足して
オーブンからベーグルを取り出し、
焼き立てほやほやのところを指でちぎってほお張った。
それはそれは、至福の味。
粉の甘みって、こういうことを言うのかなあって
一口、また一口って、気がついたら丸ごと一個消えていたり。

焼いたベーグルは、すぐに食べる分を除いて冷凍庫にしまうんだ。
そして、次の1週間分の食料になる。
トーストしてバターを塗って朝食にしたり、
サラダや簡単なおかずと一緒に持っていってランチにしたり。
ときどき、薄くスライスしてカリカリに焼き、
ベーグルラスクにすることもあったよ。
シナモンシュガーやガーリックソルトをふりかけて食べると
もう、中毒みたいに止まらなくなるんだ。
夜中、一晩中本を読みながらずっと食べ続けたこともあったっけ。
かたわらに、滅多に飲まないチェリーコークを置いて
アメリカンな気分を満喫した。
どうしよう、懐かしくて仕方ないよ。
あのキッチン、あのオーブン、
昼間、ちょっと哀しいこととかいやなことがあったりすると、
真夜中に音楽を聴きながら
朝方までベーグルを焼き続けたこともあったなあ。
あのときのベーグルは上手に焼けたんだっけ、失敗したんだっけ、
もう忘れちゃったけれど、
焼き上がりとともに迎えた朝は
ぽかんと口を開けて見とれるほど、きれいな乳白色の空だったこと、
今でもはっきり覚えてる。

さっきまでは、ただの粉と水でしかなかったものが、
あっという間に膨らんで、おいしいふかふかのベーグルになるなんて、
すごいなあ、ニンゲンってなんでもできちゃうんだなあって
改めて感動したよ。
焼き上がったベーグルが、近所で売られているものよりおいしいと、
(まあ、もちろんそれは親のひいき目みたいなものなんだけど)
わたしってすごいじゃん! 天才じゃん!なんて
自己満足に浸ったりね。
思えば、ニューヨークで過ごした一年間、
店でベーグルを買ったのはほんの数回しかない。
いつもいつも、自分で焼いた日本サイズのベーグルを食べていた。

焼きながら思っていたのは、いつかこのベーグルをひとりじゃなく
誰かと食べる未来のこと。
それは恋人かもしれないし、友だちかもしれないし、
あるいは、どこかのバザーで売り歩くのかもしれないけれど、
それでも、それを食べたひとが思わずうまいって笑っちゃうような
ベーグルを作れたらいいなあと思いながら、
全身のちからを込めて粉をこねた。
たぶん、てのひらでぎゅうぎゅうとこねながら、
わたしもニンマリ笑っていたんだろうなあ。
パンってすごいよ、その小さな姿のなかに
いっぱいのしあわせを含んでる。
たくさんのひとのほほえみを秘めている。
これがきっと、わたしがパンを好きな理由。
それは、自分で作ってようやくわかった。
ニューヨークを出てから一度もベーグルを焼いていないし、
超特大パックで買ったイーストも粉も
みんな、向こうに置いて来てしまったけれど、
また、久しぶりにベーグルを焼こう。
たとえ、いまいちな出来映えでも
「ごめんごめん、失敗しちゃったー」って笑って言えば
そこにはきっと、あたたかいほほえみがあるだろう…あるはずだ。

京都、hohoemiのベーグルをいただいた。
作り手の、てのひらの大きさがわかるようなベーグルは
むぎゅっとやさしい、弾力に満ちている。
こねたひと、焼いたひと、店先に並べたひと、買ったひと、
たくさんのほほえみを経由して、
このベーグルは、わたしの手もとにやってきたのだ。
by asian_hiro | 2009-06-15 19:49 | パン
<< 変化 マニキュア >>