もう、なんの夢だったのか忘れたけれど。
音楽をかけたまま眠るのは、
ほんとうはあまり好きではない。
それは、夜中に目が覚めて
眠りについたときに聴いていたのと同じ音楽が
相変わらず小さく、低く流れていると
なんともいえず、寒々しい空気が感じられるからなのだけど、
それでも、ここ数日は音楽をかけたまま眠り続けた。
目が覚めたときではなく、むしろ眠りに落ちる寸前まで
隙間なく、ずっと音を聴いていたかったからだ。
昨日もやっぱり音楽をつけたまま眠ってしまい、
それはまあ、確信犯だったから仕方ないのだけれど、
夜中に目を覚ますかと思ったら、めずらしく覚まさず
もうすぐ朝という時間帯になって
なぜか、ザーザーした雑音に混じり、
スピーカーから男のひとの声が聴こえてきた。
ちょうどそれは、タクシーの運転手が無線で話しているような感じで
その声で目が覚めたわたしは
一瞬、それが夢だか現実だかわからなくなったけれど、
ああ、無線LANで外の世界とつながっているのだから
たまには混線することもあるのだろう、なんて
妙な理由を考えて、また眠ってしまった。
果たして、ほんとうにそんなことはあるんだろうか。
あれはいったい、誰の声だったんだろうか。
声が聴こえたのは事実。
だって、そのときだけ音楽が途切れたんだもの。
声が止んだ途端、また音楽が始まったんだもの。
そのことを、わたしはしっかり覚えている。
インドでいちばん好きなのは、夜明け前と太陽が沈んだあと。
40度を超えようかという真っ昼間、
暑いと口にするのも億劫で、
もう、日陰だけを選んで歩くのも面倒で、
ジリジリと肌や髪の毛が焼ける音を聞きながら
ただ、町をさまようのもいいけれど、
インドがいちばんインドらしく見える時間は、
太陽の姿がなく、ひとのうごめきだけが空気を揺らしているような、
そんな、夜明け前と夜だと思う。