身体から、スパイスの香りが漂ううちに。
「ニッポンの紅茶とインドのチャイ、どっちが好き?」
最後に立ち寄ったチャイ屋で、お客のおじさんが尋ねてきた。
「もちろん、チャイです」
そうこたえると、おじさんはそうかそうかとおおらかに笑って、
自分が食べていたお菓子を半分くれた。
いくら赤道直下のインドとはいえ、冬はやっぱり寒いのだ。
冷えた身体を温めるのはチャイの役目。
飲むたびに、ふっと呼吸が楽になる。
街角の屋台で立ち止まり、あるいは、夜行列車に揺られながら、
熱いコップを手のひらで包み込む。
シチュエーションはさまざまだけど、
チャイの甘さは変わらない。
なにげないインド人の仕草のなかで、
いちばん素敵だと思うのは、チャイを持つ手のかたち。
小さな器を指の腹でしっかり掴み、
ゆっくり、ゆっくり飲み進む。
食べたり、飲んだりするスピードは、
きっと、呼吸の速さと比例するのだ。
一口、また一口とチャイを飲むたび、
頭のなかも少しずつ、少しずつ、ねじを緩める。
たった一杯のチャイを飲むために、
また、インドへ行きたいと思う。
できれば、次回も寒い季節に。
吐く息と、チャイの湯気が
口の前で溶け合い、白く混ざる様子を見るために、
できるなら、冬のインドへ帰りたいと思う。
インドで買ったMP3を聴きながら、
ひさしぶりの、自分の部屋にて。
大量に買って来た量り売りのスパイスのにおいが漂い、
ボリウッドのにぎやかな音楽が流れるこの部屋は、
まるで、インド宇宙のミニチュア版みたいです。