アジアとアジアの飯をこよなく愛するライターの、「旅」と「パン」と「おいしいもの」があれば幸せな毎日の記録です。
by asian_hiro
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日曜夜の、つれづれの話。
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先日まで、ブログをお休みしていたあいだ、
わたしは何をしていたかと言うと、
ひたすら、豆を煮ていました。

ひよこ豆、キドニービーンズ、レンズ豆。
夜、鍋へざーっと豆をあけ、
そこにたっぷりの水を注いでから眠るのが、
毎日の習慣でした。
「時間」というのは、本当にすばらしい。
わたしが眠っている間にも、ひとりせっせと仕事をして、
豆をおいしく成長させてくれるのですから。
早く柔らかくなれ、とわたしが周りで念じたところで、
状況は変わらない。
ただ、なにも心配せずに眠っていればいいのだと、
豆が教えてくれました。

豆のなかでもいちばん好きなひよこ豆は、
わたしにとって少しだけせつない豆。
これを見ると、インドの渋沢食堂を思い出します。
渋沢くん(仮名)の作るチャナマサラは、それはもう絶品で、
いや、アールーゴビも、パニールトマトも、
なにもかもすばらしかったのだけど、
チャナマサラのおいしさは格別。
作り方を盗みたいと、いつも厨房に入り込んで眺めていたけれど
おたまでスパイスをすくいとるのが早過ぎて
何がなんだかわからないうち、カレーが完成しているという達人技に
いつも、ほーっとため息をついて終わるのでした。

渋沢食堂の話は、本でもブログでも
あちこちで書いているので
なにをいまさら、という感じがしなくもないけれど、
わたしにとっては色褪せるどころか、
時が経てば経つほど思い入れが強くなる、特別な場所。
インドの思い出のうち、
半分以上はあのお店のなかにあるような気がします。
そこでは10人以上の従業員が働いていて、
夏の観光シーズンともなると
山の学校へ通う子どもたちも出稼ぎにやってきました。
そのなかでひとり、忘れられない男の子がいます。
10歳くらいのその彼、初対面は史上最低の悪印象。
お水を頼めば「フィニッシュ!」と怒鳴られ(水道水なのに!)、
カレーを頼めば永遠に渋沢くんへ注文を伝えない。
なんだこいつはって思いつつも、毎日お店へ通ううち、
少しずつ彼のことがわかってきました。
山の村に、お父さんお母さんや兄弟を残して来たこと。
2枚のTシャツをローテーションで着ていること。
いつも店の隅っこで一番最後にまかないのダルカレーを食べ、
それでも、自分の使ったお皿は誰よりも素早く洗うこと。
わたしがこの町を出る日、最後に食堂へ寄ったら、
「今日、バスはないよ」「あしたもないよ」と
こっちへ走って来てつぶやいた彼の顔。
わたしは、絶対に忘れません。

正直に言えば、「あの町へ帰りたい」とは思っても、
行くのが少し、怖い感じもしていたのです。
今、あの町へ行ったとしても、
誰も知っているひとはいないかもしれない。
渋沢くんも、あの少年も、みんな村へ帰ってしまったかもしれない。
もしかしたら、お店自体がなくなってしまったかもしれない。
そんなところへひとりで訪ねたら
あのときの思い出に押しつぶされるに決まってる。
みんなの面影を探して、うろうろと町をさまようなら、
行かない方が、まだましだ。
生温い思い出のなかで悠々と遊んでいた方がいいって
弱虫のいい訳みたいなことを、都合良く正当化しようとしていました。

ここ数日、毎日のように豆を水に浸してからベッドへ向かうとき、
渋沢くんも、こうして同じように
豆を水に浸けてから眠ったのだろうかと、いつも思い出していました。
彼らが寝る場所は、お店の屋上。
そこに毛布を敷いて、みんなで雑魚寝をするのです。
ガンジス川のさらさらという水音を聴き、
天の川を眺めながら眠るなんていいねと渋沢くんに言ったら
雨が降ったら大変だよ、と顔をしかめたことがありました。

また、来るねと言ってあの町を去った日から
もう、4年が経とうとしています。
今年こそ、
今年こそ、会いに行かないと約束を破ったことになってしまうと
いつも心にひっかかっているのですが
なかなか、足が届きません。
だけど、夜、水を張った鍋のなかへ落とした豆が
朝になって、2倍くらいの大きさへ膨らんでいるのを見るたびに
ああ、そろそろあの町へ帰ってもいいかな、帰ろうかなって
自然に思えるようになりました。
時間って、本当にすばらしい。
焦らずとも、少しずつ心に変化をもたらしてくれるのです。

今度こそ、渋沢くんにきちんとカレーの作り方を教えてもらおう。
あの少年と、もっとおしゃべりできるように
ヒンディ語をもう一度勉強してから出かけよう。
たとえ、あの店がなくなっていたとしても、
わたしはきっとその事実を受け止められるような気がする。
ああ、しかたないよね、時が過ぎたんだものね、と。

今日も、これから豆を水に浸して眠ろうと思います。
「豆」という小さな存在を通して、
今日とあしたを結びながら、
やがては、遠いインドへつながるように。
by asian_hiro | 2008-03-17 12:18 | ニューヨーク生活・日々 | Comments(12)
Commented by EMI at 2008-03-17 19:26 x
今晩はです。
上の文章を目をウルウルさせながら読んでました。
率直な感想は。。。hiroさんは心の故郷が沢山あるんだなぁって思いました。
私はやっぱり、我が家が故郷。。今は両親が心の支えです。
Commented by takusukila at 2008-03-17 19:29
いやぁ・・・hiroさん。心に響くログでした。 hiroさんはプロのライターでいらっしゃったんですね(気づくの遅くてスミマセン。笑)。

心をグッとわしづかみにするような、そんなログでした。 

インドかぁ・・・私は全然今まで行きたいと思ったことがないんですが(ヨガやってるのに。笑)、hiroさんの文章を読んで、ちょっと行きたくなりました。
Commented by yumi at 2008-03-17 20:58 x
きましたね、グッとわしずかみ。本日もです。
私も今とても行きたい所があります。距離的な問題もあり、「明日にでも」
とはいきませんが行きたいところです。私にとっては、おととしでもなく、
去年でもなく、今だからこそ行ってみたいと思うし行けると思う場所です。
少し大げさかもしれませんが、「満を持す」という言葉がここで登場です。
Commented by さや at 2008-03-17 22:06 x
童話が2,3冊書けそうな とてもいいお話です。プリントアウトして仕舞っておきます。
Commented by toco at 2008-03-18 00:10 x
わたしついこないだ、hiroさんの著書のちょーど渋沢食堂のところを、また読んだんですお!
なので、すぐに(私の脳内の)情景がうかんで、このBLOGを読めました。
インド、行くんですね☆
Commented by asian_hiro at 2008-03-18 12:59
>EMIさん
故郷、たくさんありますが、
やっぱり一番帰りたくなるのは、東京の我が家かもしれません。
その家があるからこそ、インドにも行きたくなるし、
こうしてニューヨークにもいられるんだと思っています。
いろいろなことに感謝しないと。
Commented by asian_hiro at 2008-03-18 13:01
>takusukilaさん
よく、「何をやっているひとなの?」
「パンばかり食べているひとじゃないの?」と言われますが、
実は、職業はライターです。
インド、いつか行ってみてください。
ヨガのためにアシュラムへ籠るのもいいけれど、
普通のインド人に混じって町を歩くのも楽しいですよ。
Commented by asian_hiro at 2008-03-18 13:02
>yumiさん
満を持す、まさにそのとおりですね。
機が熟さないときに無理に出かけても
すべてがちぐはぐなタイミングで終わってしまうんですよね。
yumiさんの行きたい場所、最高のタイミングで
行けるといいですね!
Commented by asian_hiro at 2008-03-18 13:04
>さやさん
わざわざプリントアウトまでしてくれて(笑)
ありがとうございます。
いつか、渋沢食堂の話だけで1冊書きたいと思っています。
たくさんカレーが登場すると思うので
妙にスパイスくさい本になりそうです…。
Commented by asian_hiro at 2008-03-18 13:06
>tocoさん
本のこと、ありがとうございます。
渋沢食堂の話、本当はあの10倍以上、いや、もっとかな、
たくさん書きたいことがあるんですが、
それはまた、ブログや別の機会に
少しずつ書いていきたいと思います。
インド、今年は行けるかな、行けるといいなあ。
Commented by 事務職の志望動機 at 2013-04-09 12:24 x
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。
Commented by asian_hiro at 2013-04-09 22:47
>事務職の志望動機さん
こんな昔の記事を遡っていただき、
ありがとうございます!
わたしも久しぶりに自分の記事を読み、
なんだか懐かしくなりました。
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