ひとにはせっかくコトバがあるんだから、
伝えなくちゃ、もったいないよね。
道路で、胡弓を弾いているおじさんがいた。
それほど時間もなかったし、一度は通り過ぎてしまったけれど、
どうしても気になることがあったので、後戻りして話しかけた。
「おじさん、わたし、日本で胡弓を習っていたよ。
ニューヨークでは、どこへ行けば楽器を買える?」
そう、英語で聞いてみたけれど、
案の定、彼は中国語しか話せない。
今こそ、旅先で身につけたデタラメチャイニーズを使うとき、と
「我、想、買…」って、たどたどしくつなげたら
おじさんはこっちを見上げ、ぱあっと顔を明るくした。
デタラメチャイニーズは、なぜか
インチキヒンディまで混じってしまい、
ますますあやしいものになったけれど、
それでも、
道のどまんなかでおじさんと会話ができたことや、
初対面のひとと笑顔を交わせたことや、
ひさしぶりに胡弓の音色を聞いて、
心がすとんと気持ちいいところへ落ち着いたことが
どうしようもなくうれしくて、
そのあとは、
るるると、はな歌をうたいながら道を歩きたいくらいだった。