土埃が似合いそうな曲を片っ端からダウンロードし、
終電の地下鉄のなかで聴いた。
エンドレスで流れ続ける音の渦に
あたまがグラグラしたけれど、
それでも電車を降りて、家までの道のりを歩きながら
まだ、わたしは旅に出るべきではないと
改めて、知った。
口にするほど、旅に餓えているわけではないのだ。
本能は何よりも正直で、「旅」という欲求は小さな種にすら育っていない。
それでも、わたしが悩んでいたり、行き詰っていたり、疲れていたりすると
周りのひとは、「また、旅に出てしまうのでは」と心配になるらしい。
大丈夫! わたしはそれほど弱くない。
いま、手の中にあるすべてのことを放り出してしまうような
意気地なしでも、卑怯者でも、無責任でもない。
逃げるように旅をするみじめさは、わたしが一番知っている。
だから、まだ旅に出ない。
安心して、と、少しだけひとりごと。
それにしても、iPodはなんて素晴らしい心の鍛錬になるんだろう!
大好きな国の音楽をこんなにいっぱい詰め込んで
大手町とか、新宿とか、銀座とか、
「ザ・東京」という車窓を眺めながら聴くなんて
あまりに自虐的なふるまいに、思わず苦笑いしてしまう。
この国を歩きながら、こころは別の町をさまよっているのだ。
身体の中心線を境にして、真逆の想いが正面からぶつかっていく。
言葉にはできないほど、切なく、苦しく、甘い気持ち。
それはまるで、たましいがゾクゾクとふるえるような。