仕事からの帰り道、なにげなく家の近所の酒屋に寄った。
なにが欲しかったわけではないが、とりあえず桃を1つ200円で買ってから店を出ようとしたとき、ある張り紙が目に付いた。
そこには「8月いっぱいで閉店します」の端整な文字。
「お店、閉じちゃうんですか」「そうなんですよ」
家の近くとは言え、滅多に立ち寄らない店だ。1ヶ月に1、2度使うかどうか。
だけど、「閉めよう」と決めたときの彼らの心を思うと、なんともいえない複雑な気持ちがした。
おじさんが私のことを覚えていたかどうかはわからない。
だけど、何十本ものフィルムを持ち込み、一緒に現像の伝票を書いたこととか、宅急便を送るときにガムテープを貸してくれたこととか、いろいろな思い出が心に浮かぶ。
急いでアイス売り場に戻り、適当に2本取ってレジへ向かった。
「ありがとね」
おじさんは、いつものとおり誠実でまっすぐな態度だった。
ZOPFのドライカレーパン。
ピリリとスパイシーな香りが身体を突き抜けた瞬間、去り行く夏に思わずすがりつきたくなった。