3年前、中国からパキスタンへ向かった。
カシュガルを出たバスは紺碧の空の下を順調に進み、国境を越えたのが午後5時ごろ。
本当はそのまま車を乗り継いで、ナウシカの古里としても有名なフンザの村を目指そうと思ったんだけど、あいにくそこへ向かう人の数が集まらないとかで、シェアタクシーは出なかった。
仕方ないので、フンザへ向かう途中のパスーという村でその日は1泊することにし、看板も出ていない、小さな宿でお世話になった。
電気などない。水道さえ、満足に出ない。
震えながら水浴びするともうやることはなくなって、夜8時には寝袋にくるまって眠りについた。
そして、目覚めた翌日の朝。
そこには神々しいほど巨大な氷河が、宿のすぐ後ろにまで迫っていた。
パスーで1泊して、震えながらバケツで水を身体にかけたことも、夜中に目を覚まし、手探りで枕元のろうそくに火をつけたことも、寝起きのボサボサ頭のまま、ポカンと口を開けながらこの景色に見惚れることも、すべては旅のシナリオに書かれていたこと。
私は、忠実にそれをこなしただけだ。
人生の台本には、なんて素敵な寄り道がいっぱい仕組まれているんだろう。
宿で働く兄さんに、こしらえてもらった朝ごはん。
パキスタンのチャイは、牛乳が違うからだろうか、インドのものよりまろやかだ。
食べ終わったころ、ちょうど向こうの大通りをジープが走っていくのが見え、宿の兄さんが合図して止めてくれた。
そして今度こそ、本当にフンザの村へ辿り着いた。
今、ひとつ、またひとつと、抱えていた山が終わるにつれ、新しい生活が再び始まろうとしている。
私は、予想外の遠回りをこれからも楽しもうと思う。