「子どものころ、僕はマイク・タイソンでした」
夜遅くの駅のホームで、ある男の声がした。
「その次は辰吉で、それから鬼塚になりました」
三十歳前後の彼が、大声で話している。
隣りにいる初老の男性は、そうか、そうかと首を振る。
「女性はこの世で一番強いから、漢字に『一』の字が入るんです」
さあ、電車が来たよ。乗り込もう。
初老の男性に導かれながら、彼は電車に乗って行ってしまった。
この世で一番強いはずの私はひとり、彼の姿を見送った。
standard deliのスコーン。
フォークを使わず手で割ると、しっかり温めてくれたスコーンは、指の間でほろほろと崩れていった。
雪みたいだと思いつつ、たっぷりの生クリームをつけて食べる。
電車から降りて地上へ出たら、外はみぞれ混じりになっていた。
明日はスコーンみたいにやさしく溶ける、粉雪の朝になるんだろうか。