混ぜるほどに分離する。
その喫茶店は、路面電車の線路の、すぐそばにあった。
通勤や通学のひとたちを乗せた電車が、
時折、テーブルの横を走っていく。
ネルドリップで淹れたコーヒーを飲みながら
あと3時間後にはじまる取材の準備をするために、
ノートと資料をかばんから取り出そうとしたとき、
筆入れのファスナーが開き、
ペンがばらばらとかばんに落ちてしまった。
その瞬間、あるひとからの手紙に
「自分の人生を、あまりかき混ぜてはいけない」
と、書かれていたことを思い出した。
コーヒーの半分はブラックで飲み、半分はミルクを入れた。
ミルクを表面へそっと落とし、うずを巻く様子を見るのが好きだ。
そういえば、いつでもコーヒーはかき混ぜない。
あえてスプーンを汚さなくても、
おのずとミルクは、コーヒーのなかに溶けていく。
ATELIER Morihiko