気がついたら2週間後の今日はもう、インドにいる。
いつも泊まるデリーの宿は、屋上に簡易な部屋が並んでいるだけのものだから、きっとこの時期は恐ろしいほど暑いだろう。
もしかしたら、もう雨の季節が始まっているかもしれない。
泥だか牛の糞だかわからないなかを、腐ったトマトやキャベツの葉っぱを蹴散らしながら、バシャバシャと歩くのかもしれない。
そんな生活が、もうすぐ始まる。
会いたい人がいっぱいいる。
帰りたい場所もいっぱいある。
今はまだ、どの町へ行ってなにをするかはまったく考えていないし、行き当たりばったりで出かけようと思っているけれど、きっと帰ってきたら「ああ、どうしてあの人に会いに行かなかったんだろう」「どうしてあの町を訪ねなかったんだろう」と後悔するのはわかってる。
旅に出れば出るほど強くなる、どうしようもないほど切ない気持ち。
日本に戻ってくれば寝ても覚めても旅のことばかり考えて、あの日々に帰りたくて帰りたくて仕方なくて、どれほど苦しむか身にしみてわかっているのに。
私はわざとそれを繰り返す。
旅は、心に傷を作りに行くようなものだと思う。
日本で少しずつ癒されて、やっと傷口が目立たなくなったと思ったら、バカみたいに旅に戻り、そしてまた一段と深くなる。
傷は思い出でもあり、トラウマでもあり、中毒でもあり、宝物でもある。