この時期の、ひそかな楽しみ。
長いことお世話になっている耳鼻科の先生は
恐らく70歳を越えているけれど、いつも声が大きくて豪快だ。
初めて診てもらったのは、社会人になって3年目の頃。
突然、耳が聴こえなくなり、昼休みに会社近くの耳鼻科に行くと
「あなたの家の近くにとてもいい病院があるから、
急いでそこへ行って、診てもらいなさい」と先生は言った。
あわてて会社を早退し、その病院へ駆け込んだら
そこにいたのは、大柄なおじいさん先生で、
「あんた、危なかったねえ。
もう少しここへ来るのが遅かったら、
完全に耳が聴こえなくなるところだったよ」と、豪快に笑った。
それ以来、その病院がわたしのかかりつけになり、
花粉症があらわれるこの時期には、決まって先生のもとへ通っている。
実家を出て、
病院から離れてしまった今もわざわざ電車で出かけていて、
先生は「また今年も遠くから来てくれたの」と、毎年笑う。
老朽化した室内ではおかっぱ頭の看護師さんたちが忙しく働いていて、
診察椅子に座って泣き叫ぶ子どもをあやしたり、
テキパキと会計を済ませたりしている。
わたしは、そんな光景を眺めつつ自分の順番を待つのがとても好きで、
「また今年も遠くから来たんだねえ」と、大きな声で言われると
花粉症の時期も、なかなか悪くないなあと思ってしまう。
どうか、先生。いつまでもお元気で。
写真は、札幌で飲んだコーヒー。
この喫茶店の話は、また今度に。