夕方、なんだかめずらしくヨガをする気分じゃなかった。
一応、クラスへ行くつもりで宿を出たんだけど、
迷うことなく、門を出たところで回れ右して、
たぶん初めてだと思う、クラスを休むことに決めた。
川沿いの細道をずんずん歩いて、滝まで来た。
その手前に、新しくできたばかりの橋があり、
「この間、ここへ来たときは工事中だったのになあ」と思いながら
まだ、砂利が積み上がっているなかを渡った。
川縁に並ぶ掘建て小屋小屋のあいだをすり抜けて
今度は、町へ向かってUターン。
さっきとは違って、
この道は時折、猛スピードで車がやってくるコンクリの車道だ。
片方が川、片方がガケっぷち。
いつの間にか、黒い犬がわたしの後をついてきた。
わたしがずんずん歩いても
犬も、とことこ追いかけて来る。
もう、道に迷って家へ帰れなくなっちゃうよ、って言っても
やっぱり、後をついてくる。
わたしが止まると、犬も止まる。
うしろからダンプカーが来ているのに、犬は止まったままだから
もう、ひかれちゃうじゃんって言いながら犬のほうへ駆け寄ったら
ダンプカーの運転手が、プーッと大きくクラクションを鳴らした。
20分、30分。
どれくらい歩いただろうか。
どこまで行っても、犬は相変わらずついてくる。
帰れなくなったって知らないからねって言いながら、
わたしも気になってしかたない。
わたしが止まると、犬も止まる。
まん丸の、ビー玉みたいな目でわたしをじっと見上げてる。
何度、見つめ合っただろうな、川沿いの大通りで。
目の前に、一軒の茶店があったので
そこで、湿気ったパンを1袋買った。6ルピーだった。
店の人たちが、じーっとわたしの様子を見ていたので
なんだか、彼らの前で犬にパンをあげるのは忍びなく、
少し進み、店が見えなくなったところで袋をやぶってパンをちぎり、
犬の足下へほうりなげた。
犬は喜んで食べた。
全部食べ終えても、犬はやっぱりわたしの後をついて来る。
もう、帰れなくなっちゃうよ、
車にひかれたって知らないからねって思いながら
わたしは歩き続けた。
時折、振り返った。
振り返ったつもりだった。
だけど、犬はいつの間にかわたしの後ろからいなくなって、
気がつくと、わたしはひとりで川沿いの道を
町へ向かって歩いていた。