今年のはじめに作ったインド旅行記より抜粋。
今日のために今日があるのではなく、
明日のために今日があるのだと、この国のひとたちは言う。
その追いかけっこは永遠と繰り返し、
いつまでたっても、今日は今日のための今日になれない。
だけど、この国の人びとを見ていると、
本当のところ、世界には「過去」と「未来」しかなく、
「現在」など、どこにも存在しないのだということが、
意外なほどしっくりくる。
物乞いの手に載せられるのは明日の食料。
施しを授けるひとに与えられるのは、来世のしあわせ。
それなら、なぜあなたは生きるのですかと問われれば、
目的などありません、と答えるしかない。
意思のないところから始まった人生に
これぞという目的を見つけるのは難しい。
それでも、正体不明の「現在」を相手にして
真剣勝負のドタバタ劇を繰り返すなら、
そんな愚かで愛しい日常も
なかなか、捨てたもんじゃないと思う。
この世は、なにも絶対ではない。
なにも確実ではない。
なにも永遠ではない。
なにも繰り返さない。
だからこそ、なにも恐れることはない。
望むものが手に入らず、
望まざるものが手に入る、その皮肉もまた人生のおもしろさ。
複雑に絡んだ糸を一本一本ほぐすように、
これはしあわせ、これはかなしみ、と
毎日、身の脇に片付ける。
それからわたしはまた、
インドへ続く一本道を全速力で走るために、
今日もキリキリと、限界までねじを巻くのだ。