どこかに、なにかを。
3本、かけた電話はどれもみなつながらず、
そのまま、電話機をポケットにしまった。
帰り道、駅の近くで必要なものをいくつか購入し、
最後に、マスカットを3房買う。
インドにいたときは、よく葡萄を食べながら町を歩いたものだ。
房からはずれた迷子の葡萄は、たいてい、安売りされている。
それを、袋いっぱい買い込んで
頬張りながら、歩いたのだ。
そんなことを懐かしく振り返りながら、
ふと、もう一度、電話をしようかと思ったけれど、
帰りがてら、葡萄をつまんでいたら
手がべとべとになっていたので
ポケットから出すのが億劫になり、
電話は、明朝、かけることにした。
すべてが、少しずつ動いている。
だけど、決してわたしが動かしているのではない。
わたしには、動かしているという実感がないのだ。
たとえていうなら、裸足で砂浜に立っている感じ。
潮がひく瞬間、わたしまで巻き添えにして、すべてが海へ返っていく。
なにかを、どこかに忘れている。
そんな、気がする。