まるで、水面から薄日が差し込む海中のような。
夕方、渋谷駅前の交差点をビルの上から見下ろすと、
灰色に濡れる歩道を、ビニールの傘が埋め尽くしていた。
右に左に、ゆらゆらと揺れながら進む透明な傘の大群は、
まるで、海にぷかぷか浮かぶクラゲのようだと思った。
帰宅し、買ったばかりのハードディスクにパソコンのデータを移す。
いまだ、ニューヨークで撮り溜めた写真がパソコン内に入っていて、
それらをひとまとめにして新しいフォルダへコピーしながら、
自分が去年の今頃は、まだニューヨークにいたのだということが
どうにも不思議で仕方なかった。
さっき、雨のなかで揺れていたクラゲの大群は、
今頃、どこにいるのだろう。
あたたかい部屋のなかで、テレビでも見ているだろうか。
それとも、まだ冷たい夜道を歩いているか。
わたしが持っていた傘は、あいにくクラゲではなかったが、
心だけはクラゲのように、さっきも今も、
ぷかぷかとあちこちの時空をさまよっている。
ameen's ovenのペカンナッツとペッパーベリー。
仄かな、だけど華やかなスパイスのおかげで、
どこまでも薄く溶けてしまいそうな心が、ぴしりとここに帰って来た。