スタートは、ゼロ地点。
屋台の目の前に立ち、「これとこれね」と指を指す。
さつまいもの澱粉で肉や野菜などの餡を包んで蒸し上げた肉圓と
魚のつみれが浮いたスープの魚丸湯。
間違って、となりの屋台のテーブル席に座ったら
おばちゃんが慌てて「こっち、こっち」と走って来た。
「ああ、ごめん、ごめん」と笑って席を移動する。
お勘定をするときも、身振り手振りのコミュニケーション。
たった一語すらきちんと交わしていないのに
それでも意思が通じてしまう、「なんとなく」なやり取りが面白い。
同じ漢字を使う彼らとの間でさえこうなのだから、
図形にしか思えないタイ語や
子供の落書きにも見えてしまうアラビア語や
どこかおどろおどろしく見えるヒンディ語を話す彼らと
完全に真正面から理解し合うことなど無理なのだ。
あきらめるわけではないけれど、
無理なのだと思ってしまえば、とてもラク。
100からスタートするのではなく、いつでもゼロからはじまるから
少し、共通点を見つけるだけで
小躍りしたくなるほどうれしくなる。
この年末、ひさしぶりにインドへ行く。
昔、勉強したヒンディ語が口をついて出てくるようになるには
旅の日程が短すぎるけれど、
出発が近づくたびに、
わたしは、あの国が本当に大好きで、
どこにいても、つねに接点を探していたのだと、しみじみ思う。