忘れない。忘れるわけない。
毎日、毎日、路地から路地へ、かくれんぼしながら歩いたのだ。
一日中、雑音混じりのラジオが漏れてる長屋の庭も、
我が物顔でねこが昼寝する雑貨屋の店先も、
「おじゃまします」って心でつぶやき、ひょいひょいと歩いたのだ。
たくさんの旅人を見送り、「またね、元気でね」って別れたのだ。
数ヶ月の旅を終えて帰る直前、ギターと歌で見送ってもらったのだ。
空港は移転し、なじみの宿も客層が変わったと聞いた。
毎日出かけた屋台も、いまは開いたり休んだりだと聞いた。
だけど、忘れない。忘れるわけない。
そもそも忘れる必要など、どこにもない。
あの町は、いつでもわたしの原点であり、目標でもあったのだから。
台湾から戻る機内で、タイの音楽ばかり聴いていたからだろうか。
いまも、こころがあの町に帰ってしかたない。
しかたないから、タイで買ったCDを浴びるように聴きながら、
生ぬるい風の夢を見て眠ろう。